スツール60

インテリア誌のページをめくると、アルヴァ・アアルトのスツール60に出会う頻度は、今も衰えていない。1933年に発表されたこの丸椅子は、90年を経てもなお、北欧の静謐な住空間にも、東京のカフェにも、ベルリンのギャラリーにもごく自然に馴染む。スツール60はいつも中心にいるわけではないが、背景として当然のように存在し続けている。その佇まいはトレンドを超越したところがある。

アアルトが開発したL字型の曲木の脚は、単なる工学的な解決策ではなく、木の「しなやかさ」という固有の性質を最大限に引き出すためのものだ。脚と座面の接合部には余分な金具はなく、木と木が一体となっている。素材に逆らわず、素材の本性に従う——その姿勢が、あの潔い佇まいを生んでいる。
同じ形が縦に積み重なる姿も、この丸椅子の特徴の一つだ。スタッキングされたスツール60は、機能的な収納でありながら、それ自体がオブジェとして成立する。製造から90年を経てもなお、フィンランドのArtek社が今もオリジナルの仕様で作り続けていることも、この椅子の「現在進行形」を支えている。復刻ではなく、継続。その事実が、スツール60に時間の外側に立つような感覚を与えている。

スツール60の価値は、単に名作として残ったことだけではない。現在のデザインシーンを眺めてみると、スツール60が共鳴する動きが見えてくる。コペンハーゲンを拠点とする次世代のデザイナーたちは素材への真摯な眼差しという点で、アアルトの仕事と地続きだ。セシリエ・マンツが陶器や照明で追求する手仕事の痕跡を残した静かなフォルム。トーマス・ウォルトマンが廃材となった教会の木材から製作する椅子。中でもアンドゥ・マゼホやダニエル・スコフィードが「3 days of desing」で発表した、木の節や木目の揺らぎを欠点ではなく、表情として扱う家具たちは、特に顕著だろう。それぞれアプローチこそ異なるが、共通しているのは素材に対する倫理的な視線。機能のためだけでなく、素材の本性を尊重することそのものが、デザインの動機となっている。

近年のインテリア誌を眺めていると、そこで理想とされる空間には共通点があるように思う。余計な装飾を削ぎ落とし、自然素材を用い、余白を残すことがそのイメージだ。それらはどこか礼拝空間を思わせる。かつて礼拝空間が担っていたような役割——日常の喧騒から人々を引き剥がし、別の時間へ誘うこと——それを、現代の住空間は引き受けようとしているのではないか。厳選された素材と沈黙。それは、かつて聖堂が持っていた構造とどこか重なる。私たちが家具に求めるものが、単なる機能や装飾から、心地よい時間や空間の質へと移りつつあるのだとすれば、90年前に生まれたこの三本脚の椅子が、今後も支持を集めることは確かだ。

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